学校の暑熱対策に、
なぜ「現地実測」が欠かせないのか?
2ヶ月間の検証データで確かめてみた
2026年10月06日
学校の暑熱対策、公式値と現場の暑さはどれくらい違うのか
夏場の学校の暑熱対策・熱中症対策として、環境省の熱中症予防情報サイトが提供する「暑さ指数(WBGT)実況値」を参考にしている先生や部活動顧問の方は多いのではないでしょうか。
環境省の熱中症予防情報サイトでも、暑さ指数(WBGT)の予測値・実況推定値について「気象庁の資料に基づいて独自の方法で算出したものであるため、実際の値とは若干異なることがあります」と案内されています。(出典:環境省 熱中症予防情報サイト)
また、文部科学省も、地域の暑さ指数の実況値・予測値やアラートの発表有無にかかわらず、実際に活動する場所の暑さ指数等を把握したうえで熱中症予防を行うことの重要性を示しています。(出典:文部科学省 熱中症対策について)
つまり、広域の公式値を参考にしつつも、実際に生徒が活動する現場でWBGTを実測することの重要性は、行政の側からもすでに示されているといえます。
環境省が提供するWBGT実況値は、特定の観測地点・推定地点における値であり、実際に体育の授業や部活動が行われている「そのグラウンド」「その体育館」の値とは限りません。
日の当たり方、地面の材質、周囲の校舎による遮蔽や照り返しなど、学校周辺の環境条件によって、同じ地域内でもWBGTは異なる可能性があります。
それでは、広域の公式値と、実際の現場の環境とは、どの程度差が生じるものなのでしょうか。
今回、ある学校法人様のグラウンド・屋内共用スペース計3地点に設置された環境モニタリングクラウド「SisMil」のWBGT実測データと、環境省が提供するWBGT実況値を、7月8日から9月10日までの約2か月間、同じ時間軸で突き合わせて検証しました。学校の暑熱対策を見直すうえでの参考になれば幸いです。
同じ校内でも、環境はこれだけ違う
今回計測した3地点は、いずれも屋外に設置されていますが、日照や風通しの条件はそれぞれ大きく異なります。
検証した学校現場の3地点
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1 ライトコート
本校舎地下1F校舎の半地下部分にある柵に設置されています。ダンス部の活動場所として、先生からの要望で設置されました。コンクリートの地面で、風通しが悪く「こもりやすい」(先生談)一方、日射はあまり当たらず、どちらかといえば日陰の環境です。
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2 グラウンド
スロープ側グラウンドのネットに設置された、遮るもののない完全な屋外地点です。人工芝のグラウンドに面しており、晴れていれば活動時間帯を通してほぼ日向、風通しも良好です。
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3 グラウンド
高3校舎側北北東を向いた校舎上階の渡り廊下の柵に設置されており、スロープ側(日向)との比較を意図した地点です。コンクリートの地面で、風通しは悪くありませんが、朝の時間帯を除き、活動時間帯はほぼ完全に日陰となります。
同じ学校の敷地内でも、これだけ環境条件が異なる地点が存在します。「学校のグラウンドだから」「同じ校内だから」と一括りにできないことが、この時点でもうかがえます。
学校の活動時間(8-17時)のデータをそろえて比較検証してみる
環境省のWBGT実況値は、その正時の観測データに基づく値です。一方、現場の実測センサーは約2分間隔で計測しているため、そのままでは測定時刻が一致しません。
そこで、各正時に最も近い実測データのうち、±5分以内に記録された値を採用し、環境省の値と比較できるように時刻をそろえました。
また、今回の検証は「部活動・授業・体育など、実際に生徒が学校現場にいる時間帯の安全管理に役立てる」ことを目的としているため、1日24時間のうち、学校の活動時間にあたる8時〜17時のデータに絞って比較しています。夜間や早朝の差まで含めてしまうと、実際に生徒が活動していない時間帯の傾向が結果に混ざってしまうためです。
そのうえで、環境省のWBGT実況値と現場の実測値に差があるのか、その差が偶然の範囲なのかを統計的に検証しました。
また、WBGTは天候などの影響を受けるため、同じ日のデータは互いに似た動きをします。そのため、1時間ごとのデータだけでなく、日ごとの平均値にまとめたデータでも同じ検証を行い、結果が変わらないかを確認しました。
統計手法について
環境省値と現場実測値の対応するデータを用いて、対応のあるt検定を実施しました。また、時間単位のデータには自己相関が生じる可能性を考慮し、日平均値に集約したデータについても同様の検定を行いました。さらに、時間単位のデータのまま自己相関を統計的に補正するNewey-West法による検証も行い、いずれの方法でも結果に変わりがないことを確認しています。
結果、地点によって「高く出る」「低く出る」がはっきり分かれた
グラウンド-スロープ側だけがプラス、ライトコートと高3校舎側はマイナス――同じ学校の中でも、地点によって環境省WBGT実況値との差の出方が逆になっていることがわかります。
学校の活動時間(8-17時)に絞って集計したところ、3地点すべてで、環境省のWBGT実況値と現場の実測値との間に、統計的に有意な差が確認されました(いずれの地点もNewey-West補正後でp<0.001)。ただし、その「差の向き」は地点によって正反対でした。
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1 ライトコート
本校舎地下1F現場の実測値が、環境省の実況値より平均0.40℃低い
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2 グラウンド
スロープ側現場の実測値が、環境省の実況値より平均+0.80℃高い
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3 グラウンド
高3校舎側現場の実測値が、環境省の実況値より平均0.68℃低い
これは、先ほどの3地点の環境の違いと符合する結果です。終日ほぼ日向のスロープ側は環境省の実況値より高く出やすく、逆に日中ほとんど日陰になるライトコートと高3校舎側は低く出やすい、という傾向が、統計的にも裏付けられた形です。
グレーは、実測値が環境省の実況値よりも低かった時間帯の割合を示しています。3地点を並べてみると、スロープ側は差がプラス側に、ライトコートと高3校舎側はマイナス側に偏っていることが分かります。
次に平均差だけでなく、差がどの程度の頻度でどれくらい生じているかを確認しました。学校の活動時間中の1時間ごとの差を分布として見ると、スロープ側は差がプラス側(環境省値より高い)に偏っており、+1℃以上になる時間帯が全体の約4割を占めます。一方、ライトコートと高3校舎側は逆に、差がマイナス側(環境省値より低い)に偏って分布しました。
さらに、最も差が大きかった日時において、環境省のWBGT実況値とスロープ側の実測値の差が6.3℃に達したケースもありました。これほどの差が生じ得るという事実は、見逃すことができません。だからこそ、実際に生徒が活動する現場でWBGTを実測することが、学校の暑熱対策における欠かせない取り組みだといえます。
参考:学校が採用している「熱中症予防のための運動指針」(公益財団法人日本スポーツ協会)のWBGT区分に当てはめると、この6.3℃の差は「警戒」から「危険」までの2段階分に相当します。「危険」になると運動は中止するべき暑さです。
やはり、学校の暑熱対策に「現地実測」は欠かせない
今回の検証では、学校の活動時間(8-17時)に絞っても、3地点すべてで環境省のWBGT実況値との間に統計的に有意な差が確認され、その差の向きは日照・地面の材質・風通しといった地点の環境条件によって正反対でした。最大で6℃以上の差が生じたケースもあり、この差は見逃せるものではありません。
学校には、生徒の安全に配慮する「安全配慮義務」があります。だからこそ、実際に部活動・体育を行う現場そのものを実測することが、学校の暑熱対策における欠かせない取り組みだといえます。
学校に限らず、工場や建設・工事現場など、屋外・半屋外で人が活動するさまざまな現場にも共通します。
実測したWBGTを、どう周知するか
多くの学校では、グラウンドや体育館を回り、計測器で都度WBGTを測定しているのが実情ではないでしょうか。気温の高い時間帯にこの作業を続けるのは学校の負担も大きく、測定してからの判断や生徒に周知するまでにも時間を要します。
SisMilのような環境モニタリングクラウドを使えば、遠隔で複数の地点を自動計測でき、常に最新のWBGTを把握できます。その上で計測した数値とその危険度を、活動場所でリアルタイムに確認できる形で周知することも、安全管理の重要な一歩です。デジタルサイネージなどでこの情報をその場で「見える化」する取り組みは、現地実測の価値をさらに高める手段の一つといえるでしょう。
実測版 熱中対策情報
with SisMil
実測データによる暑さ指数(WBGT)とその危険度をサイネージに表示します。複数箇所の実測値に対応し、危険な箇所から表示するため、迅速な安全対策に貢献します。
- 3つの指針
- 9:16〜16:9画角に対応